東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2042号 判決
右実用新案説明書における「登録請求の範囲」の項に、「図面に示すように仮枠保持杆1の先端中心に縦孔2を設け、その口部に雌ねじ3を形成し、更に鍔5を設けるとともに、他端に雄ねじ6を形成して、これにナツト7を螺合し、前記雌ねじ3には、両端に雄ねじ99を形成した緊締杆8を螺合するようにしたコンクリート仮枠締付金具の構造」と記載されていることは、当事者間に争いがなく、その成立に争いのない甲第一号証によれば、右実用新案の説明書には、「実用新案の性質、作用及び効果の要領」として、「本考案はコンクリート施工の際における仮枠の締付金具に関するものにして、その構造を図面について説明すれば、1は仮枠保持杆にして、その先端中心に縦2孔を穿設するとともに、その口部に螺ねじ3を設け、更に前記縦孔2の内端を横切る透孔4を穿設し、この透孔4に近く、鍔5を設け、かつその他端には雌ねじ6を設け、これにナツト7を螺合するようにしたものである。(中略)以上のように構成した本考案の締付金具は、その使用に当り、第四図及び第五図に示すように、両側の堰板Aに設けた孔Bに仮枠保持杆1を夫々挿嵌して、鍔5を堰板Aの外側に圧接し、その先端の穿孔2に設けた雌ねじ3に、緊締杆8の両端雄ねじ部9を夫々螺合し、更に前記鍔5の外側に柱C、C及び横機D、Dを井状に順次組立て、その外側に座金10を当ててナツト7によつて緊締するものである。(中略)以上のように本考案の締付金具は従来のこの種のものに比較して構造簡単にして操作も容易であり、しかも仮枠保持杆1の装着に当つて、鍔5によつて堰板Aの孔Bを完全に包被するためコンクリート施工に際して孔Bより流出するのを防止する役をなす。また雌ねじ3を設けた縦孔2の内端は、外部に通ずる透孔4に連絡したために、雌ねじ3に土砂等が詰つた場合は、この透孔4を通じて容易に外部に除去することができる。またこの透孔4は緊締杆8を雌ねじ3に螺合する場合或は施工後これを取り除く等に、工具を挿入してこれを回転するためにも使用することができる等種々の便益効果がある。」と記載され、これに、別紙目録第一記載のような図面が付けられていることが認められる。
そこで右認定の事実に基いて本件登録実用新案「コンクリート仮枠締付金具」の必要的構成要件が何であるかを判断するに、
(1) 仮枠保持杆の先端中心に縦孔を設けたこと。
(2) 縦孔の口部に雌ねじを形成したこと。
(3) 仮枠保持杆に鍔を設けたこと。
(4) 仮枠保持杆の他端に雄ねじを形成して、これにナツトを螺合したこと。
(5) 縦孔の口部に形成した雌ねじには、緊締杆の両端に形成した雄ねじを螺合するようにしたこと。
に存在するものと判断せられる。
被控訴人は以上に加えて、(6)仮枠保持杆の先端中心に設けた縦孔に透孔(目録第一図面4)を穿つたことが、本件登録実用新案の必要的構成要件をなすと主張するが、右透孔は、考案の構成に欠くことができない事項を記載すべきものと解せられる「登録請求の範囲」に記載されていないから、右の主張は採用しない。
一方控訴人は、(1)の仮枠保持杆の先端中心に「縦孔を設けること」は雌ねじを設ける場合に絶対必要な加工上の過程を示しただけで、それ自体は独立の要件をなさない旨主張するが、甲の「登録請求の範囲」の項には、前に認定したように、「仮枠保持杆の先端中心に………雌ねじを形成し」とある外に、ことさらに「………先端中心に縦孔を設けその口部に雌ねじ3を形成し」とし、「雌ねじ」は「その口部」に設けられる旨を記載しているから、右縦孔には雌ねじを構成する以外の「深部」、説明書の表現に従えば「内端」の存在することも当然に予定され、さればこそ「雌ねじを設けた縦孔の内端は、外部に通ずる透孔に連絡したために雌ねじに土砂等が詰つた場合は、この透孔を通じて容易に外部に除去することができ」、また「この透孔は緊締杆を雌ねじに螺合する場合或は施工後これを取り除く場合等工具を挿入してこれを回転するために使用することができる」等の作用効果を有することができるのであつて、この「透孔」が本件考案の必要的構成要件を構成するものと解し難いことは、前述のとおりであるが、本件実用新案が持ち得るかゝる作用効果は、一に「仮枠保持杆の先端中心に設けた縦孔」が「雌ねじを形成した口部」以外に、深部、説明書のいわゆる「内端」を持つていることによつてのみ期待し得るものであつて、「縦孔を有すること」は、「雌ねじを形成すること」とは、独立別個の本件考案の必要的構成要件をなすものといわなければならない。(この点に関する甲第二十四号証記載の意見は採用しない。)
なお被控訴人は、控訴人の本件実用新案権は、鍔を「堰板の外側に圧接して」使用する場合に限つて排他的権利を付与されたものであつて、これを「堰板の内側」に使用する場合を包含するものでないと主張し、なるほど本件実用新案の説明書及び図面(甲第一号証)中「実用新案の性質、作用及び効果の要領」の項には、鍔を堰板の外側に圧接して使用する旨が記載されているが、「登録請求の範囲」として記載されるところは前述のとおりであつて、これに基いて解釈すれば、本件実用新案は、先に認定した(1)ないし(5)の要件を具備した「コンクリート仮枠締付金具の構造」について登録されたものであつて、これを「堰板の外側に圧接して使用する」との前記記載は、その使用態様の一例を記載したものに過ぎず、これをかゝる特定の用途に使用する場合に限つて登録されたものとは解されないから(尤も使用の方法如何によつて、考案者が全然意図しなかつたような格別の作用効果が生ずる場合は、また別個に考えるべきであろうが、本件の場合にあつては、これを堰板の外側に圧接すると内側に圧接することによつて、その作用効果に、考案者が全然意図しなかつたような差異が生ずるものとは認められない。)同金具は、登録出願当時知られていたいかなる方法によつてこれを使用しても、いやしくも前述の必要的構成要件を具備する以上、その権利範囲に属するものとして、他に特別の事由の存在しない限り、権利侵害を構成するものと解するを相当とし、本件登録出願当時「コンクリート仮枠締付金具」において、これを堰板の内側及び外側から使用する両者の方法が知られていたことは、鑑定人久門知の鑑定書の記載によつても知ることができるから、すくなくとも鍔を堰板の外側と内側とのいずれかに使用することによつて、権利範囲の消長を来たすとの被控訴人の主張は、これを採用することができない。
(原 山下 多田)